あなたを愛するために、私は生まれてきたよ

寂しがりやの恋

そんな風に、思える恋。


言葉にできない感覚が、
全身をめぐって、
息をすることさえ、もったいないような、
そんな恋。


人生で、もう1度は、
全身で、命がけで、
そんな恋がしたい。


そう、願っていた。


そんなわたしの目の前に、
現れた人。


この人と、恋をするなら、
どんな恋になるだろう。


そんなことを考える暇もなく、
命がけなんだろう、と思った。

もし、彼を愛するのなら、
間違いなく、
命がけになる。


そんな相手が、現れた。


それは、予想もできないところから、
強烈な、
寂しさの予感と一緒に。







その人は、闘っている人だった。


尋常じゃないプレッシャーとか、
周りの人間と、自分自身に対する責任感とか、
自分がこれまで、生きてきた日々とか。


そういう重いものを、
背負いながら、
彼は生きていた。



でも、その重さを全く感じさせないくらい、
穏やかだった。




年齢という基準が
意味を持たなくなってしまうような貫禄で、
彼は笑っていた。


その醸し出される空気感は、
彼がこれまでの一つ一つの闘いに、
納得できるまでもがいて、

自分なりの答えを
積み上げてきたことの証みたいだと思った。



だけど、
その並外れた穏やかさの向こうに、
彼が大切に守ってきた世界が
あるような気がした。


きっと、いつでも、
同じ年代の子たちより、
先を生き急いできたんだね。


はやく、大人にならなければ、
いけなかったんだね。


そうすることができた、
彼の愛。

そうしなければならなかった、
彼の寂しさ。



人生の決断を、
自分ひとりで決めるたびに、
心が染まっていく、深い深い色。


それは、私も、知ってる色だった。



同じ色を心の奥に宿した彼は、
これまでの自分の話をしてくれた。


彼の日本語は、
これまで聞いてきた誰の日本語よりも、
その言葉通りに、
私の心に彼を教えてくれた。

育った場所も、
過ごしてきた日々も、
今生きる場所も、
何一つ一緒じゃないのに。


それでも、
彼のこれまでの人生を聞いていると、
同じ眼鏡をかけて、
同じ色を観ているようで、
とても、初めて会う人とは、思えなかった。


すごく不思議で、
すごく心地よくて、
だけど、
心の奥が目覚めてしまって、
落ち着かない。


そんな人と、出会ってしまった。




甘えていいよ、と
彼は言った。

私ね、ずっと、
「そのままでいいよ」って、
誰かに言いたかった。

「頑張らなくていいよ」って、
「甘えていいよ」って。


そういう言葉をかけたい人に、
恋をしてきた。

でも、そんな言葉たちは、
ほとんど、受け取ってもらえないまま、
消えていった。


だから、
次こそは、受け取ってくれる人を、と、
次の相手を探しては、
また、受け取ってもらえなくて、
傷ついてきた。



そんな私に、

彼は、
甘えていいよ、と

言った。


そのとき、
その言葉が、一番欲しかったのは、
私だ、と気付いた。


これまで私がその言葉をあげたかった、
どの相手でもなく、
誰よりも、私が、欲しかったんだなって。

そんなこと、
わかっているつもりだった。

でも、彼に出会って、
私は私に出会った。


誰かに「ひとりじゃないよ」って言うために、
自分もひとりでい続けてしまう私に、
気付いてくれる人。


誰かに「甘えていいよ」って言うくせに、
自分は甘えられないでいる私に、
気付いてくれる人。


彼も、
そうやって、生きてきたんだ、とわかった。


この人はきっと。


私が一番欲しかった言葉を、くれる人。
私が一番欲しかった言葉を、求めている人。


そんな気がした。


一生かけて、この人をわかりたい。
一生かけて、この人にわかってほしい。


そう、思った。






きっと、これまで出会った誰よりも、
同じ色をしている、
私の世界と、彼の世界。


でも、
彼とそれを分け合うには、
私には、
少々覚悟が必要だった。


きっと、
彼と、普通に幸せになる未来は、
今すぐには望めないんだ、と悟った。

毎週デートをして、
行きたい場所に行ったり、
お互いの趣味を共有したり、
記念日を祝ったり。

一緒にいろいろな経験をして、
同じ感情を分け合っていく、
そんな穏やかな幸せ。


そういう関係性を築くには、
彼は少し忙しすぎた。


今いる場所に、
叶えたい夢がある人だった。


だから、今はきっと、
彼はそこで生きるんだろう、と思った。


それでも、夢を語るその横顔を、
私は愛したいと思った。

例えば、
あなたに愛する人がいると知っても、
私はあなたの味方でい続けられるかな。


例えば、
あなたが他の誰かと愛を誓っても、
私はあなたの夢を応援し続けられるかな。


あなたを自分のものにしたい。
自分が一番近くにいたい。


私のそんな願いが、
そして、
世の中の常識とか、これまでの経験が、
私の愛を曇らせる。



そんなの、愛じゃないよ。


やめたほうがいいよ。
もう、会わないほうがいいよ。


私の愛なんて、価値がない。
私なんて、愛されない。


そんな、
私の心の傷の分だけ、
曇ってく。


私の自信のなさの分だけ、
曇ってく。


そんな気持ちを抱えながら、
あなたの笑顔を願い続けられるかな。



わからない。


早々に心折れて、
諦めるかもしれない。


きっと、
欲しくて欲しくてたまらなくて、
ひとつになりたくて、
この距離では、
我慢できなくなるときがくるね。


夢見るだけでは、
いられなくなるときがくるね。


でも。



それでも私は、


あなたを愛したくて、
あなたに愛されたくて、
あなたを見つけたよ。


だから、今は、
その曇りを、隠さずに、
眺めていようと思う。


もう少しだけ、
その曇りに、
寄り添おうと思う。


だって、あなたのそばに、いたいから。

また、傷つくかもしれない。
また、泣くかもしれない。


また、ひとりになるかもしれない。


それでも。


それでも私は、

あなたと一緒に、
ふたりになりたいです。

きっと、
どれが愛で、
どれが愛じゃないかなんて、
誰にもわからないから。


どれが本当で、
どれが嘘かなんて、
自分以外に決めさせないで。
自分の心で、感じることだから。



私、あなたを愛したいです。


あなたに、愛されたいです。


今日会ったら、
あい、という名前しか知らないあなたに
一つお願いするよ。


私のあいは、愛するの愛です。


だから、

あい、じゃなくて、

愛、って

呼んでね。




それでは、行ってきます。




***

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