愛されないことを証明するために、私は恋を壊してきた

寂しがりやの恋

好きな人に、
今の気持ちを伝えに行く、と決めた。


当日。

決戦の前に、
親愛なるカウンセラーのセッションを受けに、
会いに行った。

心も女っぷりも開いてから、
最高の状態で、
彼に会いに行こう。
最後になるかもしれないから。
そう思ってた。


これからしようとしていることを話すと、

「彼が今、自分自身を懸けているもののせいで、
私はもう会えないって言いに行くってことやろ?」
と、言われた。


「…そ、そこまでは、
はっきりは言わないつもりですけど、
そういうことになると、思います…」
すでにたじたじの私。


「それ、親密感の恐れだって気づいてる?」
「愛ちゃん、
自分が親密感の恐れ発動させてるって、
気づいてる?」


……???
………思考停止。


同じことを3回くらい聞かれて、やっと答える。
「えっと…。
認めたくないのか、
理解できないのかよくわからないですけど、
ピンとこないです」


「自分で、叩き壊しに行こうとしてることには、
気づいてる?」
と言われて、やっと意味を理解した。


「はい、伝えて、終わらせようと思ってます」


「なんで終わる前提なん?」


「……………」


「愛ちゃんはな、自分でぶち壊すことで、
やっぱり、愛されない、を証明してんねん。
愛されることを、認められないねん。
認めてしまったら、
これまでの自分を否定することになるから、
できひんねん。

それを言ったら、
愛ちゃんはすっきりはすると思う。
本当に終わりにしてもいいなら、いいと思うわ。

でも、今言おうとしてることを伝えたら、
彼も傷つけて、
自分も、彼の反応が思った反応じゃなければ、
傷つくねんで?

真面目すぎんねん。

自分からあえて傷つきにいかなくてもええねん。
終わりにしなくても、
まだ会えるって道も残しておいてもええねん。
終わりになる道しか、
選べないようにしようとしてるのは自分やで。
もったいないやん。」


この時点で、
地面と垂直になる勢いで眉毛が
下がりきる私。


そして、
「愛ちゃんが、勝手に妄想劇場を繰り広げて、
彼とはもうだめなんだ、と思ってることは、
そんなに悪いことじゃない、
むしろ彼がこの子は大丈夫、
って安心してるからかもしれへんって、
良いことかもしれんって、なんで思えへんの?


そういう気持ちで、彼を見てみ。
楽しまな損やん。
せっかく好きな人に会いに行くのに。」
と。


伝えることしか考えてなかった私。
脳内白紙状態。

でも、言わないことで、
まだ、彼との未来があるのなら。

私は、それを壊したくない、と、思った。


あんなに意気込んでいた自分を
裏切るみたいで、
迷う気持ちもあった。


私の中の恋愛アスリートは、
拍子抜けするかな。
伝えることで、
自分を大切にしようと思っていた私にとっては、
言わないことで、
また苦しい時間を過ごすんじゃないかっていう
思いもあった。


だけど、思ってしまった。

今日じゃ、なくてもいいか、と。

いやいや、
そうやって毎回結局言えずに
先延ばしにしてきたじゃん、
という自分の声も聞こえたけど、

でも、今の頭真っ白のこの状態で
何かを伝えようとしても、
きっと、納得いく形では
伝えられない。
そうなるのは、一番嫌だった。


あんなに、どう思われてもいいから、
とにかく伝えるんだって決めてた覚悟は、
ほんの少しの葛藤の後、
完全にお蔵入りとなった。
(根本師匠お墨付きの実行力は
ここにて消え失せ夜空の塵となりました。
私、アスリートの前に恋する乙女でした。)


そして、
頭をぶたれたような衝撃のまま、
私が出発しないといけない時間になり、
ジュンコさんに別れを告げて、
とりあえず、
頭で考えてたことは一旦忘れて、
楽しもう、とだけ決めて、
好きな人に会いにいった。



♠︎


とてもとても、楽しかった。

いつもより
彼の心と自分の心が近くにいるような気がして、
彼が笑ってくれるだけで、
私は幸せな気持ちになった。

とても嬉しくて温かくて、
一瞬なのに永遠みたいで、
ご褒美みたいなのに、
きらきらした贅沢ではなくて、
穏やかで安心感のある、
特別な時間だった。


彼といて、
ほっとしたのは、
初めてだったかもしれない、と思う。

今までは、
どきどきして、
きゅんとして、
じんわりして、
クラクラして、
もどかしくて、
くすぐったくて、
でも、ときどき、
心がぎゅっとつかまれたみたいに、
どこか切なくなったりしていたから。




頭で考えない、ということは、
こういう感覚なのだろうか。

帰ってきて、
その感覚を思い出して、
温かい涙が出た。

自分の気持ちを伝えたわけでも、
何か特別なことをしたり、
してもらったわけではないけれど。


物を渡すタイミングで、
少しだけ触れた手の温度とか、

ありがとう、と伝えたときに
私を見てくれた目の奥の色とか、

いつもより顔をくしゃっとさせて
笑ったときの横顔とか、

そういうものを思い出すだけで、
心の琴線がゆらゆらと揺れて、
ゆりかごみたいな安心感で、
なぜか涙が出た。


一つ一つが
宝物みたいで、
これを、失いたくないなぁ、と思った。



♠︎

私は、
当たって砕ける恋、
ばかりしてきた。

本気になった恋は、
ほとんどそうだった。

砕けて、なんぼ。
もはや、砕けなければ、本気の恋じゃない、
くらいの思いがあったのかもしれない。


刺激を得るための恋、
だった。

どうやって満たせばいいかわからない大きな穴を、
一瞬でも満たすための、大きな刺激。

鈍くなってしまった私の心が、
生きてることを感じられるような刺激。

自分の存在が、
相手を支えていると思えるような、
必要とされている、という強烈な感覚。

それを感じるには、
茨の道でなければ、ならなかった。


永遠で穏やかで温かいものではなくて、
刹那で儚げで危ういなものでなければ、
私の心では、感じられなかった。


そんな脆い恋を、
傷つけないように、
我慢して我慢して我慢して、
自分が 耐えきれなくなって、
当たって砕けて、終わりにする恋。

砕けたら、そこで、終わり。
ありったけの力でぶつかって、
相手か自分か、
あるいは両方が、壊れてしまうから。

修復できないか、
できても、長く時間がかかる。

だから、続けていけなかった。

一緒にいたくて仕方なかったのに、
愛することは許されず、
愛されることも叶わずに、
大抵、独り相撲のままで、
終わってしまった。


だけど、
一か八かの勝負みたいな恋愛じゃなくて、
砕けることが前提の恋愛じゃなくて、
続いていく関係性を、
変わりながら続いていくふたりのその先を、
私は、夢見たくなった。



ジュンコさんに言われた、
私が、恋を壊してきたのは、
もし、
愛を手に入れてしまったら、
これまでの自分を否定するような気がするからなんだ、
という言葉が、
胸に刺さった。


愛は、簡単には、手に入らない。
手に入れるのは、
とてもとても難しい。

そういうことにしておかないと、
これまで愛を手に入れられなかった自分が、
情けなくて、
惨めで、
かっこわるいから。

これまで、愛を手に入れるために
必死に頑張ってきた自分が、
無駄になってしまうから。


簡単に手に入れてしまうわけには、
いかなかった。
簡単に愛されてしまうわけには、
いかなかった。


これまでの私の、名誉のために。
だから、闘ってきた。


最初から、
手に入らなそうな恋を選んで。
手に入りそうになっても、
その前にぶち壊して。

「ほら、やっぱり、愛されなかった」
を、繰り返してた。

痛かった。
でも、その痛みは、
私に、強烈に生きてることを教えてくれた。
その痛みを感じることで、
私は私を感じていたんだと思う。


手に入らない恋をし続けることで、
私が守りたかったもの。


それは、好きな相手でもなく、
恋する気持ちでもなく、
過去の自分だったのかもしれない。


これまで私がしてきた、自分の生き方。
あのときの涙。
あのときの傷跡。
あのときの悲しみ。
これまでの痛み。

そういうものを、
私は必死に握りしめていた。

このブログのタイトルにある
勲章たちを輝かせるためにも、
私は闘い続けないといけないような気がしてた。


だけど、もう、
今の自分を、守ってあげたい、と思った。
彼と過ごす時間を、
自分のために、守ってあげたい、と思った。





私は、
いつも、
考えすぎだったのかもしれない、と思う。


これを伝えたら、
どうなるんだろう。

これを言うってことは、
こう思ってるのかな。

相手にとって私は
どういう存在なのかな。

こういう関係には、
なれないんだろうな。


全部、
好きな人を理解したかったから。
好きな人を喜ばせたかったから。


その根底には、
”私は頑張らないと愛されない”
という思いがあって、
今もそれはずっとある。


だけど、考えすぎるという私の努力は、
いつも空回りしてた。

本当はそれすら、
認めたくないんだと思う。

でも、もう、変わりたい。
だから、まずは、認めてみる。


きっとね、
相手をわかろうとしているようで、
自分の妄想で作り上げた相手を見て、
わかったような気になってた。

頭で考えすぎて、
目の前にいる相手を、
心で感じられなくなってた。

そして、
頭で考えられるように、
自分が相手に対して
一歩引いて壁を作ることで、
もっと相手がわからなくなっていた。

相手にも、
私が伝わってなかったんじゃないかと思う。
私がわからなかったんじゃないかと思う。


だけど、
愛するってきっと、
そんなに難しいことじゃなくて。

愛されるってきっと、
そんなに難しいことじゃないのかもしれない。


私が愛だと思っていた、
マグマみたいに激しく燃え盛って
火傷してしまうような愛とは違うけれど、
泉みたいに、波もなく、ただそこに存在し、
受け入れ合うことができる愛というのも、
あるのかもしれないなあ、
と、なんとなく思った。



私、あなたといて、
すごく、幸せだったよ。

好きな人と一緒にいる。
これ以上に、
私にとって価値があるものは、
ないような気がした。

ただ、
見つめられること。
声を聴けること。
「ありがとう」と伝えられること。
一緒に笑えること。
名前を呼べること。


いつもね、
「私、あなたの隣にいてもいいのかな?」って、
思ってた。

でも、この前の、
あなたの笑顔みてたら、
「私、あなたの隣にいてもいいんだなあ」って、
思えたの。


いろいろ難しいこと考えないで、
この人の隣で、
私は笑っていたい、と思った。


この幸せな時間が、
ずっと続けばいい。


この人と、
私は幸せになりたい。


ああ、言ってしまった。

そんなものは無理だと、
最初からあきらめていたこと。


どうやったら、
それが叶うのか、
私はわからないのだけど、

恋愛カウンセラーを名乗ってるくせに、
自分のことになると、
もう全然、さっぱり、
わからないのだけど、

彼と、
そういう幸せを望むことは、
真っ暗闇の中を、
あるかもわからない光を探して、
彷徨い歩くようなことなのかもしれないけれど、



でも、私は、それが欲しい。



いつか、
あなたの目を真っ直ぐ見て、
「好き」と言いたい。

いつか、
あなたと、手を繋いで歩きたい。

いつか、
あなたと、自由に行きたい場所にいけるような、
デートがしたい。

いつか、
あなたと、
抱き合って愛を伝え合いたい。


夢みたいな話かもしれない。

奇跡みたいな話かもしれない。


でも、
素直に純粋に、
私は、その幸せが欲しい。


そして、欲しいと思うことを、
その気持ちを、
私が私のために、許してあげよう、
と思った。


好きな人と、
ずっと一緒にいたいと
思うこと。

好きな人に、
愛されたいと思うこと。

もう、
それを望んでも、いいよ。

もう、その気持ちを、
自分から壊すことは、
しなくていいよ。


それを許したら、
私が伝えたいと思っていた本音は、
重苦しく私の心を埋め尽くすようなものでは
なくなっていた。

伝えたい、という衝動は、
どこかへ消えてしまった。

その衝動は、
私は愛されないと勝手に決めて、
どうせ愛されないのなら、
せめて伝えて終わりにしたい。
この気持ちをわかってほしい、という、
捨て身の叫びだったのかもしれない。

大切な、私の気持ち。
せっかく伝えるなら、
投げ捨てるようにじゃなくて、
優しく、彼に差し出せたらいいな、
と思った。





もっと、彼の近くにいきたい、と思った。
もっと、頭じゃなくて、
心と体で彼を感じたい、と。

今までの私は、
どうしたらもっと上手く愛せるんだろう、
そればかり考えていたような気がする。

今は、
愛したい、よりも、大切にしたい、
という感覚の方が強い。

彼を、大切にしたい。
彼といられる時間を、大切にしたい。

そして、私も、大切にしたい。
彼といられるときの私も、
彼といないときの私も。


そのために、
本音がなかなか言えない私も、
頭で考えないと不安になる私も、

そして、
いちばん奥底にある
‟ 私は頑張らないと愛されない”
と固く固く信じ込んでいる私を。


少しずつ、少しずつ、
許して、認めて、
大事にしてあげたい。

優しく、強く、
全て包み込んで、
抱きしめてあげたい。

そして、
もっと彼を大切にできるような、
彼に大切にされることを許せるような、
そんな自分に、なりたい。


もう、生きていることを感じるために、
大切なものを壊さなくてもいいように。
大切なものと一緒に、
生きていけるような自分になれるかな。


いつか、
全てを包めるような
ありったけの優しさで、
彼と抱きしめ合えたらいいな。



♠︎

心の中で、
アスリートの自分に聞いてみた。


ねぇ、言わないことを選んだけど、
嫌だった?と。

そしたら、
嫌じゃなかった、と言った。

楽しかったね。
彼と一緒にいられて、
笑い合えて、
幸せそうだったね。
幸せそうにしてたから、
嬉しかった。
と、言ってくれた。

自分を責めてる私は、
そこにはいなかった。


もしかしたら、
私が私を大切にしていくことで、
アスリートを引退し、
終身名誉監督になってしまうかもしれない。


大逆転の大恋愛をしなければ、
引退できないような気がしていた。

なんなら、集大成の決勝ゴールを
鮮やかに決め込まなければ、
おまけにウイニングランを
一周と言わず三周くらい堪能しなければ、
競技界に、未練だらけで、
とても引退なんてできっこない、
これまで私が歩いてきた歴史に相応しくない、
みたいな気分でいたのだけど。
(プロ意識をこじらせた結果)


でも、たとえ、恋が叶わなくても、
自分が自分を大切にしてあげるだけで、
大切にされることを自分に許してあげるだけで、
私、
あっさり電撃引退する日が来るかもしれない。


なんとなく、
そんな気がして、
そわそわしている。



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コメント

  1. 福田朋子 より:

    いつも本当に号泣させられます。私がずーっと心に抱えてきた気持ちを愛野人さんが教えてくれます。こんな風に表現して下さることで私の心がどれだけ温かく癒されてるか…。愛野ひとさんありがとう(*´ω`*)

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