‟私の愛では、愛する人を救えない”
ずっとそう思ってきた。
だけど、
前回の記事を、綴ってみて。
‟私は、そこにいるだけで
愛する人の力になれていたのかもしれない“
その思いにたどり着いたとき、
涙が止まらなくなった。
衝撃すぎて。
心と体がひとつの線で繋がれて、
自然と涙が溢れてきた。
そこにいるだけで、
力になれていたなんて、
そんなこと、あるのだろうか。
でも、
心の奥から身体の隅々を伝って
溢れてくるような涙が、
何かを教えてくれているような気がして、
やっとわかってくれた、と、
言っているような気がして、
私は、
それを、否定することはできなかった。
いつものように、
そんなことあるわけない、
とは、思えなかった。
だから、
心の中に、
もう少し、問いかけてみようと思った。
受け取る、よりも、してあげたい、
と思う、私の愛のこと。
愛される、よりも、愛したい、
と思う、私の愛のこと。
何かをしなければ、愛されない、
と思う、私の愛のこと。
♠
私の愛は、
最初から、完璧な、
してあげたい、愛したい、
という愛だったわけでは、
なかったと思う。
そこを認めることは、
愛することに命を懸けてきた私にとっては、
負けを認めるみたいで、
少し、勇気のいることだけど。
それどころか、
欲しい気持ちと、
愛されたい気持ちが、
きっと、
もしかしたら、人よりも、
たくさんあったと思う。
本当は、されたい人、だったと思う。
一人っ子の、甘えんぼだから。
だけど、
満たされなくて、
押さえつけた結果、
その気持ちが大きかった分だけ、
それを覆い尽くすようにして、
自分でも抱えきれないほどの
してあげたい愛が、
愛したい愛が、
出来上がったような気がする。
私は、
お母さんにしてほしいことがたくさんあった。
だけど、お母さんがいなくなって、
お母さんにしてほしかったことは、
全部、してもらえないこと、
になった。
もっと、抱きしめて欲しかった。
もっと、愛、って呼んで欲しかった。
もっと、甘えたかった。
もっと、わがまま言いたかった。
もっと、いろんなことを教えて欲しかった。
ずっとずっと、愛して欲しかった。
ずっとずっと、生きてて欲しかった。
「ずっと、一緒にいてほしい」
それが一番言いたかった。
だけど、それが一番言えなかった。
お母さんが叶えられないかもしれない願いを
口にしたら、
お母さんを、
責めてしまうような気がした。
お母さんを、傷つけてしまうような、
そんな気がした。
そして、何一つ言えないまま、
永遠に叶わない願いになった。
たくさんたくさん愛してくれたけど、
6年の間に、
一生分、愛してくれたんだとわかっているけど、
それでも、
何よりも私が望んだのは、
一緒にいてもらうことだった。
だから、
『私は、愛する人に、
望むようには、愛してはもらえない』
という、掟を作った。
私の無意識は、
そういう掟を作ることで、
悲しみでつぶれそうな自分の心を守った。
あの頃、
そうやって、
心の奥で固く決めておかないと、
お母さんから望むように愛されることを、
願い続けてしまいそうだった。
そうでもしなければ、
お母さんを失ったことを
受け入れられなかった。
だけど、そんな固い掟では、
ぽっかりと空いてしまった私の心は、
埋まるはずなんてなかった。
その大きな穴は、
私の生きる力を奪おうとした。
私には、それを忘れられるくらいの、
生きる意味が必要だった。
だから、
愛することで、満たそうとした。
満たされていないことを
隠すように、
がむしゃらに、
誰かを愛してきた。
満たすには、
愛するしかないと思ってた。
愛されることで満たされる、
そんなことは諦めていないと、
心の穴に、落ちてしまいそうだった。
だから、
愛されるなんて、望めないような人を選んだ。
期待しなくても済むような人を選んだ。
一緒にいられない人を選んだ。
間違って、望んでしまわないように。
期待しなくても済むように。
愛されてしまったら、壊れてしまうから。
愛する人に、
望むようには、愛してはもらえないという、
私の掟が。
♠
ああ、私。
本当は、
怒っているのかもしれない。
ずっと、許せなかったのかもしれない。
愛されるということを諦めておかないと、
きっと、
私を置いていったお母さんを
恨んでしまいそうだったんだ。
今、気づいたよ。
私、
お母さんを、恨みたくなかったんだ。
責めたくなかったんだ。
だから、
望むように愛してもらえないことを、
当たり前にしておきたかったんだ。
だけど、
恨みたくない、のままで、
私の時は、ずっと止まってた。
許すことまで、進めてなかった。
お母さんが生きていた、
最後の私の誕生日に、
お母さんがくれた手作りの絵本。
写真以外で、
お母さんが残してくれた唯一の形見。
器用だったお母さん。
綺麗な字で、書いてある。
「あい 6才おめでとう
びょうきになってごめんね
でも、よくなるからね
いつもいつも、
あいのことだいすきだよ」
お母さんの、嘘つき。
病気、よくならなかった。
大好きなら、
ずっと一緒にいてくれると思った。
大好きなら、
いなくならないと思った。
でも、わたしを置いて、いなくなった。
大好きなのに
こんなに大好きなのに、
お母さんは、
わたしを置いて、いなくなった。
お母さん、
一緒にいたかったよ。
ずっとずっと、一緒にいたかった。
私を置いて、
いなくならないで。
私、本当は、
そう言って、泣きたかった。
どうして、いなくなったの?
どうして、死んじゃったの?
私のこと、大好きだって、言ったじゃん。
よくなるよって、言ったじゃん。
そばにいないのなら、
こんな言葉は、何の意味もないよ。
お母さんの、嘘つき。
私は、本当は、そうやって、
お母さんに、怒りたかった。
♠
だけど、
してほしいばっかりじゃなかったってことにも、
気づいた。
お母さん、
私、本当は、言って欲しかった。
つらい、って。
苦しい、って。
悲しい、って。
痛い、って。
死にたくない、って。
私を置いて、行きたくない、って。
ほんとうの気持ち。
お母さん、
私、してあげたかった。
痛いところ、いくらでも、
さすってあげたかった。
たくさんたくさん、
励ましてあげたかった。
我慢しなくてもいいよ。
ちゃんとしてなくてもいいよ。
弱音を吐いてもいいよ。
髪の毛なんかなくても、
頬が痩せこけても、
痛みで私につらく当たってしまっても、
いいよ。
どんなお母さんでも、
大好きだよ。
そう言ってあげたかった。
どんなお母さんでも、
強くて優しいお母さんじゃなくても、
全部、受け止めてあげたかった。
味方でいてあげたかった。
たくさんたくさん、
一緒にいてあげたかった。
小さいからって、
見くびらないでよ、お母さん。
何もできないなんて、
何もわからないなんて、
可愛そうなんて、
思ったりしないでよ。
遠慮しないで、
たった一人の娘に、
頼ってほしかった。
お母さんの心のそばに、いたかった。
でも、お母さんは、
何も言わなかった。
辛くて、苦しい顔を、私に見せなかった。
愛、助けてって、
言わなかった。
だから、私、
どうしたらいいかわからなくて、
何一つ、してあげられなかった。
ねえ。
お母さんも、
私にしてあげたかったのかな。
たくさん、たくさん、
してあげたかったのかな。
でも、私が、言わなかったから。
娘の精いっぱいの強がりを、
無下にすることなんてできなくて、
本当は、してあげたかったこと、
できなかったのかな。
ごめんね。
そして、同じように、
私にしてほしいことがあったでしょ。
できなくて、ごめんね。
お母さん。
わかってたでしょ?
私の強がり。
私も、わかってたよ。
お母さんの強がり。
でも、私たち、似てるから、
言わないことを選んだんだよね。
お母さんも、私も、
つらい顔を見せない、
その努力を、わかっていたから。
その愛に、気付いていたから。
言わずに、お互いの気持ちを
優先しあって、
お互いの優しさを
何も言わずに、受け取ったのかもしれないね。
きっとそうだね。
強がりで、見栄っ張りで、甘え下手で、我慢強くて、
そんな母娘にしかできない、
信じて見守る愛を、
貫こうとしたんだね。
今まで、
そんなふうには思えなかった。
大好きなお母さんに、
何もしてあげられなかった、
そう、思ってた。
違うね。
違ったね。
何もしなかったわけじゃないね。
私、何もできなかったわけじゃ、
なかったんだね。
お母さんの、
娘の前で強くいようとする愛に、
全力で、応えようとしただけ。
命懸けで、
笑顔だけを見せようとしたお母さんの愛を、
全身で、受け取っただけ。
お母さんの努力を、
ちゃんと、わかっていたから。
その愛を、ちゃんと、感じていたんだね。
痛いと言わないこと。
娘に苦しい顔を見せないこと。
言った方が、楽だったでしょう?
甘えてしまった方が、楽だったでしょう?
辛くて痛くてどうしようもないとき、
お母さんだって、
私にたくさん、会いたかったでしょう?
でも、それをしないことを選んだ。
私が頼りなかったからじゃない。
私のことを、
信じていないと、できなかったでしょう?
愛は、言わなくても、
ちゃんとわかってくれる、って。
お母さん、強い姿を、
命懸けで、見せてくれて、ありがとう。
命懸けで、笑顔のお母さんだけを、
私に残してくれて、ありがとう。
お母さんの愛、
あの頃の私は、
ちゃんと心で受け取ってたよ。
今まで、わからなかった。
お母さんの愛を、理解するのに、
こんなに時間がかかっちゃって、
ごめんね。
今、わかったからね。
お母さんが、強く、愛してくれていたこと。
お母さんが、強く、信じてくれていたこと。
私が、それをひたむきに受け取っていたこと。
受け取ることで、お母さんを愛せていたこと。
お母さん、私のこと、
命懸けで、
信じてくれて、ありがとう。
***
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