私の本音は、大好きな人を悲しませる

ずっと大好きなお母さん

あなたに出会ってから、
昔の記憶を思い出す瞬間が増えた。


初めて知る痛みばかりで、
それが痛みだなんてことさえもわからなくて、
それゆえに、
どんなことでも真っすぐ受け止めて、
自分の小さい心の中にしまうことしかできなかった、
私のこと。


それでも、
その小さな自分の全身ありったけの愛で、
大好きな人を守ろうとしていた、
私のことを。





ディズニーランドのチケットが当たった。

記憶がおぼろげなのだけど、
当時4、5歳くらいだった気がする。

お母さんの病気が治って、
またお父さんと3人で
暮らし始めた頃だったように思う。

お母さんが、
買い物に行ったお店のくじ引きで、
ディズニーランドのチケットを当てた。
(なぜがそのくじ運だけは娘に引き継がれていない・・・)

すごく嬉しくて、
毎日楽しみにしていたような気がする。

でも、お母さんの具合が、
また、悪くなってしまった。


再発。


病気が、
また、お母さんを私から奪っていった。


もう一度、戻ってきたと思った
家族3人の幸せは、
一瞬で、幻になってしまった。


「お母さん、具合悪くなっちゃったから、仕方ないね」

「お母さんの具合が良くなったら、また今度行こうね」

って、お父さんは言った。

でもね、私、
当選したチケットを使うことはないんだろうなって、
なんとなく、わかってた。

今度は来ないって、
なんとなく、感じてた。

「行きたい」

「なんで、行けないの?」

本当はそう言いたかった。


「お母さんと一緒に、ディズニーランドに行きたい」

子どもなら、
きっと当たり前に思うこと。

ありふれているけど、
この上ない幸せな願い事。


でも、そのときの私には、
その一言が
言えなかった。

私がそれを言ってしまえば、
お母さんが悲しむから。

どれだけそれを願っていても、
私が本当のことを言うと、
お母さんを傷つけてしまうから。

私よりも、
お母さんの方が辛いから。
お父さんの方が苦しそうだから。

そんなことを、
小さな心で、
感じていたのかもしれない。

だから、
記憶の中の小さい私は、
何も言わずに、
ただ、頷いていたんだと思う。





そんな記憶を、思い出した。

その時、言えなかった感覚が、
今もまだのどの奥につかえたように、
よみがえる。

でも、私だって、
最初から我慢していたわけじゃない。

ある日、買ってもらった本に、
組み立てる付録がついていた。

私はそれを、
お母さんに作ってほしかった。

だから、「お母さん、作って」と頼んだ。

そうしたら、
「お母さん、具合が悪いから、お父さんが作るよ」と
お父さん。

でも、私は、
「やだ!!お母さんがいい!」と言った。

「お母さん、具合が悪いんだから、わがまま言うな!」
と、お父さんが怒鳴り返した。

「ごめんね」と、お母さんは言った。

私はぎゃーぎゃー泣いて、喚いて、
作ってくれようとするお父さんに対して、
ずっと駄々をこねていた。


でも、その時の、
取り返しのつかないことを言ってしまったんじゃないか、
という気持ちは、
お母さんとお父さんを傷つけてしまったんじゃないか、
という気持ちは、
すごく嫌な感覚で、
私の心に刻まれた。


記憶に残っているうちでは、
堂々と泣いて喚いて気持ちを叫べたのは、
それが最後かもしれない。


そして、
そういう経験を何度も繰り返すうちに、

ああ、
私が本当のことを言うと、
大好きな人を悲しませるんだ。

そう、思った。

だから、いつしか、
本当の気持ちを、
私は言わなくなった。

まだ、どれが本当の気持ちかわからなくて、
むしろ、
本当の気持ちしか、
なかったかもしれない。

それでも、
思っていることは言わずにいたほうが
大好きな人たちの悲しい顔を見なくて
すむのかもしれない、と、
私は無意識に察した。


だから、

嫌だ、の代わりに、
悲しい、の代わりに、

私は、平気だよ。
私は、大丈夫だよ。

そんな言葉を、言うようになった。

ある日、
お母さんが保育園のお迎えに来てくれた。

私は嬉しくて、はしゃぎすぎて、
お母さんに見てほしくて、
遊具でがむしゃらに遊んでいて、
遊具から落ちた。

お母さんに抱き抱えられて、
痛くて、涙は止められなかった。

でも、
「自分で落ちたくて、飛び降りたの。だから、平気なの」
と、言った。

お母さんの胸に抱かれて泣く私が、
必死に訴えていた夕時の風景が、
記憶に残っている。

私の頭は、
心の声を必死に隠すようになっていて、
泣いているのに、
痛かった、と言えなかった。
怖かった、と言えなかった。





お母さんがこの世を去ってからは、
残された家族の安心を守る、
という使命を、
無意識に勝手に背負い、
自分との闘いが始まった。

男の子に間違われるくらい、
ボーイッシュに振る舞うようになった。

強く、明るく。

学校でも、家でも、
いつもみんなを笑わせた。

お母さんに結ってもらうのが好きだった長い髪は、
いつからかショートカットになった。

3歳の七五三のときの写真。
つやつやの長い髪と、
着物なんていや!と泣いて着させてもらった
真っ白のドレスで、おすまししている写真。

たぶん、それが、本当の私の姿。

長い髪が好きだった。
ふりふりのドレスが好きだった。
かわいらしいものが好きだった。

でも、
小学生から思春期を迎えるまでの私は、
かっこいいことが正義だった。

服装も男の子みたいに。
言葉遣いも男っぽく。
友達の中でも、男の子らしく。
漫画だって、少年漫画を読んで、
ヒーローに憧れて。

本当にそうしたかったのか、
何かが麻痺していたのか、
そうしないといられなかったのかは、
今でもわからない。

でも、当時の私は、
何かに突き動かされたみたいに、
たった少しの違和感もなく、
男の子のように振る舞った。

今は、それは、
‟強くいよう”という、
私なりの秘めた決意だったのかもしれない
と思う。

だって、
強くいれば、
きっと、大事な人の悲しむ顔を見なくてすむから。


「私は、強いから、大丈夫だよ」

家族を安心させるため。
天国のお母さんを安心させるため。

だって、男の子みたいに、強いから。
こんなに、強いから。

小さな私の無意識が考えた、
何も言わずに大切な人を守るための、
必死の策だったんだと思う。






男の子みたいに振る舞う時代を終えて、
成長していっても、
心に染みついたクセは、
変わらないままだった。

中学でいじめられたとき、
誰にも言わなかった。
毎晩ヘッドホンで音楽を聴きながら、
ベッドの中で泣きながら朝が来るのを待って、
必死に学校に行った。

高校の部活で、
最後の大会の直前にペアを組んでいた子が
入院してしまったときも、
誰にも弱音を吐かず、
黙々と練習を続けた。

大学生になると、
悲しいときや辛いときは、
一日でも何日でも部屋にこもって、
ただ自分の感情を自分で見つめるようになっていた。


ずっと、
ひとりで戦っているような、
そんな気持ちだった。

もちろん、
何も言わなくても支えてくれた人がいたからやってこれたし、
私が頼れば力になってくれる人はいたと思う。

心を開けずにいたのは私だと、
今ならわかる。

でも、そのときの私は、
ただ、平気そうにすることで必死だった。

家族には、いつも、
「元気で楽しくやっているよ」と、
電話をした。

友達が泣いていたら、
自分も泣きたいときでも、
話を聞いた。

いつも心に、
「私はどうせ優先してもらえない」という
怒りがあった。

それは、
たまに耐えきれずあふれ出て、
私をイライラさせた。

でも、
誰かが私を優先してくれなかったわけじゃない。
私を優先することを許してこなかったのは、
誰より自分だった。

本当は、
全然、
大丈夫じゃなかったんだと思う。

自分の気持ちは、
いつも置き去りだった。







あのとき、平気じゃなかった。

あのとき、さみしかった。

あのとき、痛かった。

あのとき、悲しかった。


あなたの前で、泣きたかった。

あなたに、わがままを言いたかった。

あなたと、ずっと一緒にいたかった。


私のほんとうの気持ち。


でも、それが伝わったら、
大好きな人を困らせる。

私が本当のことを言ったら、
大好きな人を悲しませる。

だから、
できるだけ、
伝わらないように。
言わなくてすむように。

伝わらないような距離の恋。
伝えられないような相手。
受け取ってくれないような相手。
私と同じように、心を閉じている相手。

そういう相手ばかり、
選んできた。

私にとっては、
本音を言わないことが、
愛だったから。

本音を隠せる距離にいないと、
愛せないような気がした。
こんなに燃え盛る心の中を見せてしまったら、
愛してもらえないような気がした。

間違って、
近づきすぎて、
重いと、去って行かれたこともあった。

ああ、やっぱり、と思った。

だから、
その距離感でいないと、
愛する人を燃やしてしまいそうだった。
焼け切ってしまうことが怖かった。

大人になって、どれだけ心を傾けても、
火がつけられないこともあることを知ってからは、
そのことを知るのも、怖くなった。


だけど、
怖い気持ちと同じくらい、
愛する人の心をこじ開けたかった。
その心の奥に、火を灯したかった。

心のいちばん奥で、
愛する人と繋がりたくて、
仕方なかった。

私の愛は、
消したくても、消えないのに、
愛する人を上手に暖めることもできない
加減を知らない炎みたいだった。


ずっと、さみしかった。


どんなに誰かを好きになっても、
ずっと、
ひとりぼっちの気分だった。


自分で遠ざけたくせに、
自分から離れたくせに、
誰も、ほんとうの私をわかってくれないと、
思っていた。


私ね、

ほんとうの私で、
愛する人と一緒にいたかった。

ほんとうの気持ちを、
たくさん伝えたかった。

ほんとうの私を、
愛して欲しかった。


だから、
あなたの話を聞いた時、
他人事に思えなかった。

あなたにも、
ずっと言えなかった言葉がある、と聞いた時、
心の叫びが聞こえた気がした。

この人の本当の声を聞きたいと思った。
この人が本当のことを言える場所になりたいと、
強く強く願った。



だけど。


私は今、
あなたに、
大丈夫、と言っている。


会えなくても、
連絡こなくても、
大丈夫、と言っている。


ごめん。


私、本当は、
全然、大丈夫じゃなかったみたい。


本当は、強がってた。

あなたに好きになってほしくて、
あなたの支えになりたくて、
あなたの隣にいたくて、
少し、我慢しちゃったの。


あなたの孤独もさみしさも不器用さも強がりも
全部まるごと受け入れたくて、
そんな風に愛せる女になりたくて、
少し、見栄張っちゃったの。


私、本当はね、

全然、平気じゃない。

さみしい。

痛い。

悲しい。


あなたと一緒にいたい。

あなたの一番になりたい。

大好きなの。


あなたに、ほんとうの気持ちを、
たくさん聞いてほしい。

あなたのいないところじゃなくて、
あなたの前で、顔を真っ赤にして、
思いっきり、泣きたい。

あの頃言えなかった言葉たちが、
のどの奥に詰って、
狭く、細くして、
通らなくしてしまうけれど。


それでも、伝えたい。

あなたを、
困らせるかもしれない。

もう、
支えでいられないかもしれない。


終わってしまうかもしれない。


それでも。


もう、
この距離でいるのは、
ほんとうの私が、悲しむから。

ほんとうの私を、
もう、悲しませたくないから。


私ね、
あなたに出会って、
思ったよ。

私の心は、
傷つきやすくて、
こわれやすくて、
柔らかくて、
純粋で
真っすぐな、
あの頃のままなのかもしれない、って。

たくさんの経験をして、
時間とともに、
変わってきたと思っていたけど。

心の奥の真ん中は、
まだ、あの頃のまま、
あなたと出会うのを、
ずっと待っていたのかもしれない、って。


私ね、
あなたに恋をして、
大丈夫、と言って、
気付いたよ。


これじゃない、って。

私が欲しかったのは、
これじゃないって、
やっと、思い出したの。

私が本当に欲しかったのは、
大丈夫と言い続けられる強さでも、
我慢して笑顔でいられる器でも、
絶妙な距離感を保つ感覚でもなくて、


大好きな人の
いちばん側にいられることだった。


大好きな人に、
ほんとうの気持ちを、
伝えられることだった。


大好きな人に、
ほんとうの私を、
受け入れてもらえることだった。


欲しかったけど、
どうしても手に入らなくて、
とっくの昔に、
諦めてしまったもの。

欲しいといって、
もらえなくて傷つくくらいなら、
最初から望まなければいいと、
諦めてきたもの。

どうせ手に入らないのに、
欲しいというのが怖かった。
たとえ手に入れても、
いつか失ってしまうのが怖かった。

でも、やっぱり、
欲しくて欲しくてたまらなくて、
同じように、
それを求めているように見える人と
やり直そうとしてきたけれど、
全然上手くいかなかったんだ。


私ね、あなたの前では、
余裕のあるいい女ぶってるけど、
全然、そんなことないよ。


ほんとうの私は、
感情にすさまじく波があって、
さみしがりやで、
暴れん坊の、
無邪気な少女だよ。


もう、
余裕なんか保っていられないくらい、
あなたが好きだから。


もう、
この距離では我慢できないほど、
あなたが好きだから。


だから、ほんとうの私を、
あなたに見せるね。

これまでずっと、
自分だけほんとうを見せずに、
愛する人のほんとうだけを
奪おうとしていたのかもしれない。

だけど、そうじゃなくて。

私のほんとうと
あなたのほんとうを
ちゃんと、分け合いたい。


私は、
そんな恋がしたい。


だから、伝えよう。
たとえ、さようならになっても。


大好きな人を守るために、
ずっと悲しませてきた、
私のために。


ほんとうの私を見せて
終わってしまう恋は、
もう、いらないから。




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