寂しがりやの私は、寂しがりやのあなたの居場所になりたかった。

寂しがりやの恋

前回の続きです。




好きな人のところへ向かいながら。


油断すると、私の頭は、
何をどうやって伝えよう、
どういえば上手く伝わるかな、
と、考え始めてしまう。


ずっと、そうやってきたから。
ずっと、そうやって考えて、
言うことと言わないことを区別して、
結局言いたいことも言えなくて、
なんとかここまで、
続けてきたのだから。


でも、今日は、
事前に言葉は用意しない。
事前にあなたの反応を予想しない。


「好き」と「寂しい」
それだけ言えたら、
もう後は、そのときの心で話す、
と、決めた。


いつも、
強くて綺麗な私を、
一歩一歩、作り上げて、歩いた道。


今日は、
これまで作ってきた私を
ひとつずつ捨てていくように、
一歩一歩、歩いた。





*****






久しぶりに会う、好きな人。




今から私は、好きな人に告白する。

堂々と告白するなんて、
何年ぶりだろう。
少し緊張したけれど、
もう、何も隠したり、考えたり、
取り繕ったりしなくていいと思うと、
不思議と、
気持ちは落ち着いた。





「今日は、言いたかったこと、言いにきたよ」

「言っていい?」




何?言って、と、
彼は驚いたように少し笑いながら、
でも、隣に座る私の方は見ずに、
少しだけこちらに耳を傾けるようにして、言った。






「私ね、あなたが、好き」




彼の横顔に伝えた。



そう伝えるのを想像するだけで、
泣けて泣けて仕方なかったけど、
いざ、その瞬間の私は、
いろいろ吹っ切れて、
一周したのか、
もう涙は出なかった。

言葉を飲み込んで言いそびれないように、
溜めすぎて余計な感情が出てこないように、
勢いで、最後まで、言い切った。





私の謎の迫力に押されたのか、
おお、と、
少しだけ体を後ろにそらして、
驚いたような顔をして、
やっぱりまた少し笑った。


そして、
こちらに向きなおして言った。


ありがとう。

面と向かって好きって
言われることなんて、ないからな。
照れるな。


好きって直接言われたのなんて、いつぶりだろう。





「言ったら困るかなと思って、言えなかった」



困らないよ。
好きって言われたら、嬉しいよ。




けど、難しいな。
こんなに、仕事人間で、生まれてしまったから。

年々恋愛から遠ざかってるし。

そういう自分を、
愛してほしいとも言えないし。




「うん、そうだよね」




俺みたいな男、好きになったら大変だよ。

なかなか俺みたいなやついないから。




「うん、本当に、素敵な人だと思ってたよ。」

「なかなかこんな男いないからさ、
会いに来てたら、いつまでも、あなたを好きでいちゃうでしょ?」



そうだよな。



「でも、寂しいの。
もう、寂しいのを、我慢できないくらい、好きになっちゃったんだよ。

だから、この前、もう会いに来ないって言ったの」



なるほどね…。

前向きな別れね。
前向きな別れも、ありだと思う。



そういう彼のとなりで、
私は、切なくなって、
でも、もう会わないと言い出したのは私だから、
何と言っていいかわからなくて、
少し困った顔で笑った。





俺のどういうとこが好きなの?


「全部」


全部か、と、彼は笑った。



「全部、好きだったよ」


過去形なの?


「今も好きだよ」





「初めて会って、この人、武士みたいだなって思ってね」

懐かしいな。

「自分で考えて納得できるまでやり抜いてくところも好きだし、
カラオケに行った時に、好きな曲とかが一緒だったでしょ?
哀愁とか、寂しさ、みたいな、そういう感性が、一緒なのかなって。

私、こんなに一緒な人、今までいなかったから」

それは俺もそうだよ。

「生きてきた環境は違うけど、
これまで抱えてきた寂しい気持ちとか、考え方とか、一緒な気がしたんだよ」


俺も、寂しいよ、と、彼は言った。

満たされなさみたいなのは、

ずっとあるよ、と。

でも、
だからこそ、
頑張ろうって、強くなろうって思える、と、
彼は言った。




「その寂しさを、一緒に乗り越えていけたらよかったんだけど」


「ほら、私、寂しがりやだからさ」



俺も寂しがりやだよ、と、
彼は言った。






そんなこと、知ってるよ。
だから、私は、あなたの居場所になりたかったんだよ。


そう思う。


でも、
その瞬間は、
声には、ならなかった。




*****



好きなところは、
もっともっとたくさんあるけど、
上手く言葉にはできなかった。

別れ際に、もう一度、好きといいたかった。
大好きと言って、笑顔で帰ってくればよかった。

でも、結局、言えずに、帰ってきた。



また、と言う彼に、
今日が最後だから、と、伝えようと思った。

でも、結局、言えずに、帰ってきた。



少しだけ、
後悔したけれど、
でも、もう、これまでみたいに、
そのことで自分を責める私はいなかった。


結局、言えないのが、
私らしいやって、思えたから。



LINEの画面を見つめながら、
言葉を並べた。

本当の気持ちを言えて、よかったこと。
ちゃんと聞いてくれたことへの、ありがとう。

あなたの癒しに、支えになりたいと、
本当に思っていたこと。

今日が最後と決めていたこと。
一緒に過ごした時間が宝物だということ。
幸せな時間をくれたことへの、ありがとう。

大好き。

過去形にはできないし、
潔く終わりにするような
かっこいい女にはなれないけど、
今の素直な気持ちを送ります、と、送った。



泣いているのだけど、
なんだか、不思議と、心は重たくなかった。

なんて言ったら、
綺麗な去り際になるのか、
何を伝えたら、
彼の心に、残れるのか、
正解を考えたけど、
でも、もう、正解じゃなくてもいいと思えた。
思いついたまま、送った。


潔く、終わりにできないのが、私。
自分で終わりにしたいというくせに、
未練たらたらなのが、私。

颯爽とした去り際を
あなたに覚えていてもらえるくらい
かっこいい女になりたかったけど、
そんなものに私はなれない。

もう、なれないものには、ならなくていい。

そう思ったら、
今まで私の心を
固く縛り付けていたものが緩んで、
やっと、息が、自由に吸えるようになった気がした。



コントロールすることも手放せないし、
綺麗に伝えようとする癖も健在で、
言えなかったこともあるし、
未練も依存も何もかも溢れ出てたと思う。

なんなら、
私のことを引き止めてって、
もう会わないなんて言わないでくれと言ってほしいですって、
顔に書いてあったと思う。笑



だけど、
私は私の言いたいことを言った、
大好きな人に、
今まで言えなかったことを
ちゃんと言った、
少しだけでも、頭で考えた私じゃなくて、
心で感じた私でいられる瞬間が、ちゃんとあった。

そのことが、私の心を軽くしてくれた。
いままで彼に会った夜に感じていたような
欠乏感は、不思議と感じなかった。


だから、
好きなまま、
このままでも、
私は、もう、歩いていけるな、と思った。




好きな人を好きじゃなくなろうとするなんて、
無理だから。

どんな理由があっても、
好きな人のことは、
好きでいていいよね。

好きでいることは、
自由だよね。


だけど、
好きになった人が見ている未来と、
自分が描いてる幸せが、違うとき。

自分が望んでいる人生の形が、
叶えられないと感じるとき、
好き、が迷う。


私もずっと、迷ってた。
このままでいいのかなって、思ってた。

私が望むような幸せを手に入れるには、
彼への恋を選ぶのか、自分を大事にするのか、
その二択しかなくて、
私は、自分を大事にすることを選んだ。


でも、本当は、
誰かを好きになることは、
その二択じゃなかったよね。

好きな気持ちを、
そんな簡単に、
切り分けたり、
思い通りに扱ったりなんてできないよね。


あなたを好きになった私を、
こんなに追いかけてしまう私を、
綺麗と思って欲しくて、
精一杯綺麗にして行ってた私を、
会いに行くことで自分の寂しさを
一生懸命埋めようとしてた私を、
もう会いに行かないと決めたのに、
会いにいってしまう私を、
こうやって迷ってぐずぐずしてる私を、
大好きだったと、
過去形にする勇気も覚悟もない私を、
引き止めてくれないかな、
そんな気持ちが滲み出てる私を、
もしも会いたくなってしまったときのために、
さようならと言わずにいる私を、
あなたの返事で終わってるLINEを
もう何十回も見返してる私を、
かっこわるくて、未練たらたらで、
潔く決めきれない私を、
幸せな未来を望めない恋だとしても、
あなたが大好きで大好きで大好きな私を、

私は、やっと、受け入れた。


そんな私でも、いいじゃん、と思えた。
そんな私が、最高だと思えた。

こんなに好きになれる人に会えて、
私、よかったな。

叶わなかろうが、
好きになってもらうことがなかろうが、
送りたかった愛のうちの
ほんの少ししか届かなかろうが、

ちゃんと、好きって言えた私が、
私は、好き。

こんなに泣けるほど、
誰かを愛せてよかった。

大好きな人が笑って生きてる、
私も、自分の人生を生きてく、
きっとそれでいい。





彼に見てた寂しさは、私の寂しさそのもの。

お母さんがいなくなって、
欠けちゃった私の心。
それは、その欠けた形さえ、
私の一部みたいなもの。
だから、それはもう、埋めなくていい。
私の寂しさも、彼の寂しさも、
そのまま、そこにあっていい。
どうにかしようと、もう、しなくていい。





私の好きは、嬉しいと言ってもらえた。
私の好きを、ありがとうって、受け取ってもらえた。

ただ、それだけなんだけど、
ただ、それだけのことが、
私は嬉しくて、泣いた。




もちろん、

私が本当に欲しかった返事なのかと言えば
そうじゃない。
でも、私が本当に欲しい返事は、
来ないことはわかっていて、
それでも、伝えたくて、行ったんだ。

だけど、わかっていても、
もしかしたら、もしかしたら、
何か、想像とは違う返事が返ってくることも
あるかもしれない、
と思う気持ちもあった。

そういうものを全部抱えて
言いたかったことを伝えに行くことが、
今の私にとっては、
私を大切にすることのような気がした。




私、
大好きで大好きで、
思うだけで涙が出てくるくらい大好きな人に、
ちゃんと、好きと言えたよ。
大好きと伝えたよ。

好きを、まっすぐ感じられること。
誰にも遠慮せず、
好きな人に、好きって、伝えられること。

それが、すごくすごく嬉しかった。
そんな当たり前のことを、
私はずっと忘れていたのかもしれない。
その懐かしい感覚を、思い出せたような気がした。



綺麗事かもしれなくて、
美談にしようとしてるだけかもしれなくて、
自分を納得させようとしてるだけかもしれなくて、
明日の私は、
いや、明日でもなく数時間後には、
執着して悲しい気持ちになってる私が
いるかもしれないけど、
現に、これを書き始めた数日前から、
いろんな感情が代わる代わる、
押し寄せてはひいていくのだけど、
でも、全部、それでいいと思った。


最後最後詐欺をするかもしれなくて、
あわよくばの期待も捨てきれなくて、
また、会いたくなって仕方なくなったら、
会いに行こう、と、思っている、私。

かっこわるいけど。

でも、それでも、いい。



あなたを好きな気持ちを抑えて、
かっこいい女でいるくらいなら、
かっこわるい女でいい。


みっともないくらい、あなたが好きな私でいい。





受け入れるって、
なんとも思わなくなることかと思ってた。
平気になることかと思ってた。


でも、たぶん、そうじゃない。


たぶん、私は、この先も、
あなたのことを思い出すし、
苦しくなるし、
悲しくなるし、
寂しくなるんだと思う。


新しい恋をして、
あなたのことをなんとも思わなくなる日よりも、
どうしても会いたくなって、
また会いに行く日がくる方が
先だったりするかもしれない。


なんとも思わなくなる日も、
いつか来るかもしれないけど、
でも、きっと、
あの駅で降りたら思い出すし、
あの曲を聞いたら思い出すし、
あの店に行ったら思い出すし、
あの言葉を聞いたら思い出すし、
あの色を見たら思い出すし、
あの匂いを嗅いだら思い出す。


初めて出会った6月には、
あなたを見つけてしまった嬉しさを、
雨の日には、相合傘と、
1メータ―だけ乗ったタクシーの中で
私から重ねた手のことを、
耐えきれないほど寂しいひとりの夜には、
あの日隣にあった横顔を、
きっと思い出す。

そして、少し胸が締め付けられて、
もどかしくなる。



だけど、
ちゃんと悲しくなっていいんだよ。
こんなにあなたを愛した私には、
あなたのことを思い出す権利がある。

あなたを思って泣く自由がある。
また、会いに行く自由も、
思い続ける自由も、
思い続けない自由もある。


受け入れるって、
何とも思わなくなることじゃなくて、
何を思ってもいいし、
何を感じてもいいと思えることで、
そう思えない自分も抱きしめられることで、
心が揺れることを、
ちゃんと受け止めていけることなんだと思う。






愛されたくて、終わりにすると決めた恋。
それなのに、自分の心に従って動いたら、
愛せて嬉しい、に、戻ってきてしまった。笑



おかえり、私。




今度こそ、私、
大好きな人と一緒にいることと、
自分を大事にすることが、
当たり前に同じになるような恋を、
そこで悩む必要がないくらい
幸せを感じられる恋がしたい。


また、誰かを愛したい。
そして、今度は、同じくらい、愛されたい。




私は、ちっとも恋愛上手じゃないけど、
たくさんたくさん失敗して、
いっぱいいっぱい傷ついてきたけど、
でも、それでも、
これからも、
好きな人に好きって伝えて、生きていく。


ありのままの私の気持ちを、
全身で感じて、
愛する人に伝えて、生きていくよ。



揺れる心を、受け止めながら、
今日も、生きていくよ。










*****





読んでくださってありがとうございます。

この彼への恋は、
気持ちとしては、
ひと段落した気がしていて、
文章には書かなくなると思うので、
(結構すぐに第2章を始めたりしてる
自分の姿も普通にイメージできることが怖い)
最初から、まとめてみました。



誰ですかね、
女の恋は上書き保存とか言った人は。

私はね、ちゃんとね、フォルダ分けして、
大事に取っておくタイプですよ。
ちゃんとカテゴリ分けもしちゃうんだから。





寂しがりやな私が、寂しがりやの彼にした、
大切な恋の話。

読んでもらえたら、
一緒に、胸にしまってもらえたら、
すごく嬉しいです。




***

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