愛されることを、私はもう、待たない

私の愛


好きな人に、会いに行った。



今日は。
私の話を、したかった。



今日は、たくさん話を聞いてほしい、
と、前もって、伝えるほど、
私の話を、したかった。



今日だけは。


彼の話を聞くよりも、
彼の話にどんなあいづちをするか考えるよりも。
彼が何を話したくて、どんなことを聞いたら、
彼が言いたいことを言えるか、考えるよりも。
彼が話しているとき、
頭に浮かんだ質問は、今日は、横に置いておいて。
そして、上手く話が聞けなかったかもしれないことを、
家に帰って、後悔することよりも。



私の話を。
私が、話したい話を。

彼に聞いて欲しくて、たまらなかった話を。
彼に、わかるよ、と言って欲しかった話を。







お店の席に座るのと同時に、彼は言った。
「話したいって、何があったの?」と。


そして、たくさん聞いてくれた。
わかるよ、と言ってくれた。


カウンターで、となりにいる彼に。

横を向いて、目が合うと、
彼の瞳に映る自分が見えそうなくらいの距離。

ぽつり、ぽつりと、
私を伝えた。



これまで、ずっと我慢してきたこと。
お母さんを亡くしてから、
家族に心配をかけないように、
「寂しい」という言葉だけが、
どうしても言えなかったこと。

自分の夢があっても、
それを追いかけることに対して、
家族を心配させてはいけない、
というひっかかりが残っていて、
踏み出しきれずにいること。

あなたに、しんどいとか、弱音言わないね、
と言われたことがあったけど、
それは、
悲しい気持ちを我慢する癖があるから、ということ。
言い方がわからない、ということ。

でも、そんな自分を、変えたいと思っていたこと。
そんな自分を変えたくて、
この前、実家に帰ったときに、
家族に思いの丈を書いた手紙を読んだこと。
家族の前で、
気持ちを伝えてわんわん泣いたこと。

きっと、あなただったら、
この気持ちをわかってくれる、と思ったこと。
家族に手紙を読んだ後、
あなたにすごく会いたくなった、ということ。

自分のために、
自分の気持ちを、
ちゃんと伝えられる人になりたかった、ということ。

そして、
あなたとも、
もっとわかり合えるようになりたかった、
と言おうかと思ったけど、
恥ずかしくて、それは言えなかった。

誰と、とは言わず、
「ちゃんと自分の気持ちを伝えて、
わかり合いたいじゃない?」
と、伝えた。


「それはそうだね。どんな人であっても。」
と、彼は言った。


そして、
「大事な人であればあるほど。」


と、私が次に言おうとしてた言葉を、続けた。


「そう。それを、今、私も言いたかった」



私は、続けた。
でも、自分が変わることに対して、
怖さも不安もあること。


「だから………。


もしも、弱音を吐きたくなったら、

あなたに、会いに来るね」



「いいよ。
俺にだったら、どんだけ弱音吐いてもいいよ」



その瞬間、どうしようもなく、
彼に触れたくなって、
椅子の肘掛を超えて、
彼の手に触れた。


自分から手を伸ばしたくせに、
なぜか今更、恥ずかしくて、
親指だけ、ぎゅって、握った。


そして、

「あなたが、こうやって、弱音を聞いてくれたら、
ひとりじゃないって思える」と、

前を向く彼の横顔に、伝えた。



肩が触れるか触れないかぎりぎりで、
かすめるくらいの距離から、
肩がわずかに触れ続ける距離まで、
そっと、体を傾けて、
少しの間、彼の温度を感じてた。



その時、きっと、私、これまでの人生で一番、
綺麗になっているんじゃないか、
そんな気がした。

ただの思い上がりでも、
勘違いでも、
バカみたいでもいい。
夢みたいに、
いや、夢か現実かなんてどうでもよくなるくらい、
満たされた気がした。


あなたの瞳に見つめられる度に、
私はきっと、何度でも、
綺麗になり続けるよ。


大好きな人の声に鼓膜が揺れて、
言葉が心に沁みて、温度に触れて、
心が溶け合うように感じるとき。
その一瞬に私の全てがあって、
その瞬間を感じるために生きてることを、
あなたが教えてくれる。


私が感じることのできる感情を、
あますことなく全て閉じ込めて密封したような、
大好きな人とすごす、一瞬。




そして、少しの沈黙の後。






「ブレスケア持ってる?」





……ん?

椅子から崩れ落ちそうになった。
雰囲気ぶち壊しもいいところ。


「これ、すごくニンニク効いてない?」
と、一緒に食べていた料理を指さす彼。

それに対して、
料理に潜むニンニクにめっぽう疎い、という
昔からの個性を遺憾なく発揮した私は、
言われてみれば…?くらいにしか思わなかった。


………私、こんな近距離で話してたけど、
臭かったのだろうか。

私がこんなに幸せで満ち溢れていたこの時間、
彼はニンニクの匂いで
満ち溢れていたのだろうか。

まあ、それはそれで。
ニンニク事件と呼んで、
ふたりの歴史に、
私が勝手に語り継いでおきます。



そんな夜。 (どんな夜)



さよならの前に、
俺にとっては、この時間が憩いだと、
言ってくれた。


一生懸命にそう伝えてくれるあなたをみたら、
嬉しくて、心がじんわり溶けていく。
ニンニクの匂いも
打ち消されていった(はず)。


なんだか笑えてきてしまって、
私も憩いだよ、と言った。







いつも、本当はね。

あなたに会って帰ってくるときに、
どれだけ嬉しくて、楽しくても、
ひとりになるのが
寂しくて、寂しくて耐えきれなかった。

言えなかった言葉で、
伝えられなかった気持ちで、
鈍く重たくなった心を持て余しながら、帰ってた。

帰り道、コンビニに寄って、甘いものを買って、
一人の部屋で食べて、
必死に満たそうとしてた。


ふたりになろうと頑張った心が、
結局ふたりになれないことを思い知った、
さみしさがあって。
ふたりでいたかった心が、
引き剥がされて傷つくような、
痛みがあった。


でも、その日、初めて。
あなたを好きになって、初めて。
ひとりで帰るのが、怖くなかったの。

背筋が、ピンと伸びて、
好きという気持ちが、すごく透き通って、
余計な何かに、邪魔されることもなく、
隠されることもなく、
私の心の中で、堂々とした存在感を放ってた。

好き、という気持ちが、
怯えることも、恐れることもなく、
ただ、私の心の中に、
あったかい光を灯してた。

そして、コンビニの眩しい明かりに目もくれず、
軽い足取りで、家に辿り着いた。



ああ、私、話したかったんだ。
今更、わかった。

役に立ちたくて、いつも、話を聞く側だった。
思いついた言葉も、いったん飲み込んだり、
何を言おうか、考える時間が生まれるから、
会話のペースが早いあなたの方が、
自然と先に話し出して、
私は、自分の話をする前に、
あなたの話を聞いていた。

もちろん、それも、
私にとっては、幸せだった。


でも、ほんとは。

私のことも、
聞いて欲しかったんだ。
あなたに、頼りたかったんだ。
甘えたかったんだ。

私は、こんな人だよ。
私は、こんな風に思ってるよ。
それを、ちゃんと伝えて。

私があなたをわかりたいと思うように、
あなたに、私を、わかってほしかった。
ずっと。


わたしの中には、
こんなにあなたがいるのに、
あなたの中には、
わたしはいないような気がしてた。

どれだけそばにいても、
どれだけあなたの話を聞いても、
近くにいられるのは、
となりにいる間、だけだった。
だから、別れて、ひとりになるのが嫌だった。


だけど、
わたし、をちゃんと伝えられたら、
私はひとりが怖くなくなった。

わたし、をちゃんと感じたら、
ちゃんと、あなたを感じられるようになった。

そばにいてくれるあなたのことを。
包んでくれてるあなたのことを。
私、ちゃんと、
感じることができたんだよ。


あなたを愛してから、はじめて、
今、やっと、ひとりが怖くなくなった。


どうしても、近づけない、一線。
どれだけ好きになっても、
何回会いに行っても、
あなたと私の間に、
超えられないものがあるような気がしてた。


でも、それを作っていたのは、
私だったのかな。
境界線。
これ以上、
私が、あなたを好きにならないための、安全柵。


もしも、それを、
あなたが飛び越えてきてくれたら、
私は安心して、あなたに本気になれる。

だって、飛び越えてきてくれるほど、
あなたが本気なんだって、
思うことができるから。



だから、待ってた。

私のことも、聞いてほしかった。
私の心に、もっと、入ってきてほしかった。
でも、あなたから飛び越えてくることは、
もちろん、なかった。


これまでの私なら、そこで、
諦めたのかもしれない。

愛がないってことを証明するために、
自分のやり方で、あなたを試して、
ここで追いかけてくれないなら、
ほら、やっぱりって、
終わりにしたのかもしれない。

でも。
今の私には、
あなたを諦めるという選択肢が、ないの。
それなら、私にできることは、ただひとつ。


私は、その日、
我慢しきれずに、自分から、
その一線を、飛び超えたのかもしれない。
きっと、そうだったんだと、今、思った。


重いと思われるかもしれない。
自己満足になるかもしれない。
それでも、
ただ、伝えたい。
私は、あなたと繋がりたい。
そんな気持ちを
大切にするために、私は飛び越えた。


言いたいことを、言う。
聞きたいことを、聞く。
そこに、遠慮はいらない。
我慢も、思考も、いらない。

どう思われるかは、
自分がどれだけ考えても分からなくて、
相手が決めること。

そこに、コントロールも、後悔もいらない。

もしも、思っていた反応と違っても、
それは、あなたが、わたしのことを、
ありのまま、感じてくれた証でしかないから。
そこで、繋がることを終わりにしなければ、
終わるわけじゃないから。
怖がることは、ないんだよね。
理解し合えるチャンスをもらった、
と思えばいいよね。


それだけのことを、やっと、少しだけ、
でも、たしかに心で、
実感できたような気がした。

いつだって、
ただ、その瞬間のわたしを、
あなたに差し出すだけ。
それだけで、いい。

気持ちも、言葉も、体温も。

それは、信じているから、
出来ること。


あなたが、わたし、を、
わかろうとしてくれることを。
あなたが、ありのままを、
受け止めようとしてくれることを。
愛する人の、愛の器を。


そして何より、
ありのままの、わたしのことを。
たとえ、愛する人と違っても、
そのままで大丈夫、ということを。






あなたが、何かをしてくれないから、
愛されていない。
あなたが、何かをしてくれたら、
愛されている。


そう思っていたの。

だから、私、待っていたの。
あなたから、何かしてくれるのを。

何かしてくれることを期待して、
そして、何かしてくれないと、
愛がないと思ってたの。

あなたから、
何かをしてくれるかどうかで、
愛を測ってたの。


だけど。


私から、あなたのとなりにいくだけで。

私から、私の心を、あなたに見せるだけで。

私から、あなたが特別だと、伝えるだけで。

私から、あなたに触れるだけで。

私は、愛を感じたから。


だから、もう、待たなくていいんだと思った。

愛は、私から、で、
感じることができると知ったから。


愛されることを、私は、もう、待たない。


私から、
大好きなあなたに、
愛してもらいにいくよ。
たくさん、たくさん、
愛してもらいにいくよ。


愛する人に愛されることを、
勝手に諦める前に、

私から、あなたに、
ちゃんと、手を伸ばすよ。


諦めるのは、
伸ばしたこの手が、
届かなかったときでいい。

諦めるのは、
もう、私から、
できることは何もないと思えたときでいい。


私は、あなたが、好き。


あなたに、頼りたい。
あなたに、守ってほしい。
あなたに、甘えたい。
あなたに、わかってほしい。
あなたに、優しくしてほしい。

ほしいと、願ってはいけないと思ってた。

ほしいと願うことは、
ひとりよがりで、重いことで、
あなたの負担になると、
負担になれば、嫌われる、と。

ほしがりすぎて、壊した恋の傷跡で、
ほしがることを、悪と思ってた。

だけど、
私の心を重くしていたのは、
ほしいと思う気持ちじゃなくて、
ほしいことをほしいと言えないこと、
だったんだと思う。
ほしいと思う私のことを、
我慢していたから、だったんだと思う。



私は、あなたがほしい。

好きだから、あなたがほしいの。

愛しているから、愛されたいの。
ただ、それだけなの。

私が手を伸ばしたら、
この手をとってね。


ねぇ。
もっと、もっと、近くにいかせてね。
もっと、もっと、私の話を聞いてね。
もっと、もっと、私を笑わせてね。
もっと、もっと、私のことを、好きになってね。

もっともっと、あなたを好きにさせてね。


私はもう、
愛されることを、待ったりしないから。


私から、あなたに、愛されにいくから。
私から、あなたを、愛していくから。

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